2003年 松下政経塾特別例会

 
◆金川 敏治(岡山政経塾 二期生)

松下政経塾合宿レポート



【教育と福祉】


 藤崎育子氏のお話は豊富な訪問相談を元にした現場でしかわからない事実と、先生の独自の分析とがより一層、「不登校」や「引きこもり」の現実をリアルに伝えてくれたと思う。こういった現象に苦しむ年齢層が20代だけではなく40代にも及んでいること、男女の立ち直りの差など興味深い情報が、想像以上に大きな社会問題であることを感じさせた。特にこの講演からは「引きこもり」は「部屋に閉じこもる」という物理的なもの以上に、どちらかというと「社会から隔絶してしまう」という精神的な部分が大きいのではないだろうか。さらに、こういった問題解決の一番の解決方法が、家族などの肉親以上に相談員の粘り強い対象者との接触であるところからすると、現代人が電話、メール、インターネットという発達した通信手段の中で、かえって身近な人との日常的なコミュニケーションが不足しているのではないかと感じた。



【国際政治とこれからの日本のすべきこと】

 小沢一彦氏のお話から考えたことは今後の日本の在り方である。講演では20世紀前半の日本は外交に翻弄されてきた事実、21世紀も強大な経済と軍事力の下、アメリカは20世紀に続く第二のパックスアメリカーナを目指しており、今のところ世界はそれに従うしかないということであった。しかし、テロとの戦いという終わることのできない戦いを続け、再び双子の赤字を抱えつつあるアメリカに対し、一方で中国は広大な市場を生かし、外国企業を誘致することで技術力の習得に努めたり、ASEANとの経済共同圏構築に積極的であったりと国内産業の育成とその将来を見据え世界経済とのリンクに努めている。さらに外交では6カ国協議の再開等で「アジア外交の中心」を演出しようとするなど少なくともアジア地域の存在感も十分である。また、ロシアは将来石油に代わるとされる天然ガス埋蔵量が世界有数とされこれをカードに外交だけでなく、将来は今の石油同様、世界経済に大きな力を及ぼすかもしれない。こういった次世紀の覇権を取りうるナンバー2の経済情勢も含めて小沢先生はアメリカの繁栄を残り70年程としたのだと思う。日本は再び外交で泣きを見ないようにしなければならないともおっしゃられていた。では、日本人はこの70年をどう過ごすべきか?小沢先生も橘塾生も上里塾生も、日本の強さの一つに「人材」を挙げられたことは興味深いことである。「優れた人材=国力」という視点でアメリカを見ると世界中から好待遇で様々な分野の逸材を集め、その待遇と人材の多さに魅了され、次世代の逸材もしくは逸材に育ちうる人材が世界から集まるという好循環が起こっていることは誰の眼から見ても明らかではないだろうか。一方で日本は優れた製品を生み出す貿易大国でありながらようやく特許手続きの緩和や研究者への待遇改善をようやく始めたばかりで人材が国内に留まりやすい環境であるとは必ずしもいえない。さらに、減少する日本の人口問題やそれに付随する年金といった社会保障の問題、教育改革の問題と見直すべき問題は数多く、これに加え戦後50年間手付かずで、現状に合わなくなった制度上の問題や、新しい時代への対応が求められる。国家戦略にのっとって人材を活用・育成する環境を整えるためにも政治・外交分野へもっと優秀な人材が供給されるべきではないかと考える。



【おわりに】

 今回の合宿の目的は「松下幸之助の理念を学び、松下政経塾生と交流を深める。」ということであった。松下政経塾の方々との交流を通じて、自分の中で複雑に絡み合って混乱していた考え方や価値観が悠然と整い始めた気がした。「自己の向上を図る人は常に高い目標を置き、時には自分より優れた人への嫉妬や自己の要求するものに才能が追いつかないという自己嫌悪に悩みながらも、他の優れた人からしっかり話を聞き、交流し成長していくもの」といった哲学というか雰囲気のようなものをわずかばかりではあるが体得できたと思う。また、松下幸之助氏のお話はビデオでありながら気迫がにじみ出ていた。敗戦を経験し、豊かになって満足し残りの人生をゆっくり過ごそうとしていた世代のなかで、一番物質的、金銭的に豊かであったであろう幸之助氏がいち早く政治の問題を指摘し、惜しむことなく莫大な費用を投じ投資(=松下政経塾)をしてこの世を去ったことは人間の生き方として鮮やかであり、まさに「経営の神様」であったと思う。そして亡き後も氏が好まれた茶室に掲げ続けられている自筆の文字が「素」であるということがより一層その思いを強くさせた。



参考文献・HP
    『日本の外交』入江 昭 中央公論新社
    『中国経済真の実力』森谷 正規 文春新書
     特許庁ホームページ>特許庁の取り組み
           http://www.jpo.go.jp/torikumi/index.htm