2008年 松下政経塾特別例会

 
◆林部 貴亮(岡山政経塾 七期生)
岡山政経塾
《松下政経塾合宿レポート》(2008/09/06〜07)




 まず、今回の機会を与えていただいた、松下政経塾の皆様、松下政経塾OBの皆様、岡山政経塾事務局の皆様、例会担当の方々、そして例会後の自主研修の取りまとめをしていただいた荻野さん、本当にありがとうございました。
 
 今回の合宿で印象に残っていることは、古山塾頭の講演の中であった「師を持たずしてその道を極める」という松下政経塾の心構え、海老根市長・前田正子氏の講演の中であった「市民としての役割をどう考えるべきか」という市民の消費者化に対する問題提起の2点です。まさに今、「まちづくり分科会」の一員として、(もちろん「自修自得」の形で)もがきながらも卒塾論文の執筆に向けた活動が本格化しており、今回のこの経験が卒塾論文の完成に向けて大きな糧になったと思います。
 そして、短期間ではありましたが、松下政経塾という一種「不思議」な空間(日常の自分がほとんど考えられていないことを徹底的に考えることができた、という意味で敢えて「不思議」という言葉を使います)に身を置かせていただいたことで、日々に追われているだけでは感じ得ない数十年後、数百年後を見据えた「次の日本・次の世界」という意識が芽生えたことも大きな糧です。自分が「次の日本・次の世界」に影響を与える「名人」になれるわけではないと思っていますが、その視点で生きていくこと、政治を捉えていくこと、仕事をしていくことを実践していきたいと心から感じました。

■“ジブンゴト”
 古山塾頭の講演や松下幸之助インタビューVTRでは脈々と流れる松下政経塾の志を多く学ぶことができました。私が特に印象に残っているのが、以下の3点です。
・自修自得=「師を持たずしてその道を極める」という心構え
・上手ではなく、50年に1人ほどしか出ない名人をいかに作るか
・数世紀後までも見通し、理想を追求する姿勢
 松下政経塾の門をくぐった瞬間から感じた少々の違和感と大きな緊張感、そして塾生の方から感じるエネルギーはこれらの心構えから来ていることを実感し、政治であっても経済・経営であっても「ジブンゴト(=自分がどうしたいのか? 社会のためにどうありたいのか?)」として日々考えていきたいと決意しました。

■市民の消費者化
 海老根藤沢市長・前田正子氏の講演では、「行政と市民の役割」についての気付きが多くありました。行政サービスを提供される側の現実と苦悩、そして我々市民側のエゴの大きさ等、実態が良くわかりました。
 その中でも「100センチの高さという市民目線での市民経営」を訴える海老根市長のお話からは、まずは市長自身のエネルギー(それは「市長はどろぼう以外何でもできる」というお言葉に表れていると思います)、そして、市政を市民に経営者意識を持ってもらう活動として捉え、実践されていることに感銘を受けました。私は、それほど市長の仕事が見えておらず、市長=「判断者」としての活動だけだろうと思っていたのですが、107のマニュフェストを市役所の業務に一つ一つ落とし、その進捗を確認していく地道な活動をされていることに驚きました。とにもかくにも海老根市長のエネルギーを感じた90分だったと思います。
 次の前田正子氏の講演がこの合宿で最も楽しみなメニューでした。行政側の立場から、お金が出て行くだけの福祉部門をどう変革したのかというテーマが私の研究テーマにも近いからです。
 特に「市民は消費者かクルーか」という問題提起に最も心を揺さぶられました。税金を払って消費者になった気持ちでいる市民の存在が地域を駄目にしてしまうことの怖さ、特に世界一の高齢国になることが決定している日本で、そういった市民が増えることで行政も破綻してしまう、という危機感を感じたからです。市民としての「痛み」を認識しつつ、しかし必要な(受けないと生活が安定化しない)サービスは何か、逆に自らが地域のためにできることは何か、そのバランスを考えた上で「大鉈を振るう」べき部分は何か? それを考えることが地方行政である、という前田氏の強い言葉がまさに私の研究テーマの道標だと思っています。
 
■熱い議論
 28期生の熊谷さんとの大きな出会いがあったのが懇談会でした。私と同様、東北地方の出身であり、東北の活性化を本気で研究されている姿が本当にまぶしく映りました。特に二人で議論したのは「自分の故郷に自信を持つ子供たちをいかに作っていくか、それは自分たち大人の役割である」という点です。活性化というと、「モノ」「カネ」をいかに取り込んでいくか、という点に終始してしまいまいますが、まず流出していく「ヒト」をいかにつなぎとめるか、そのための地元への「自信や誇り」をどうやって醸成していくか、その観点で「熊谷さんは政治で、(私は仕事として携わっている)教育で達成したいですね」という話ができたことが今でも心の中に熱く残っています。
 また、松下政経塾OBの海老名茅ヶ崎市議のお話からは、市民として必要な情報をきちんと取っていくことの重要性を教えていただきました。「情報開示ってしたことありますか? したことないのに行政サービスが見えないっていうことに対しては、少しおかしさを感じます」という言葉、私の中にぐさっと刺さりました。この点に関しては、海老根市長・前田氏がおっしゃっていた通り、自分は文句を言っているだけの消費者でした。サービスを受け手として待っているだけではなく、まずは知ること、わからないと思うならそのために動くこと、この当たり前だができていないことが市議の方のリアルな活動の中から見えてきました。分科会活動で必ず役立てたいと思う気付きでした。

■教育の定義
 宮川塾生の講演では、教員時代の経験と松下政経塾入塾のきっかけをお話いただきましたが、特にその中でも「教育の定義」についてのお話が心に残っています。教育とは「次世代をつなぐ/次世代をつくる」、そして、教師とは子供たちの命を守ることであるという明確な定義をいただきました。福武幹事も常々おっしゃっている「子供は未来からの留学生である」という言葉にもつながりますが、「教育」だけではない、自らの生活や仕事や生き方が「次の世代に何を与えるものなのか、与えないまでにもどうつなぐきっかけになっているのか」、自問自答していく必要性を感じました。
 また、自分自身も教育関連の仕事に携わっていますので、現場の教員が抱える「リーダーを育てるための高等学校教育とは?」という発問をしましたが、それに対して「リーダーの定義を考えさせること」という回答をいただきました。自分が求められているもの、そして自分が大切にしたいことを認識し、その上で本当の自分の道を見極めていくことが大切ということがよくわかりました。あわせて教え子の方(北京大学へ留学した生徒さん)のお話をお伺いできたため、実践の過程やリーダーは卒業後もどう育っていくかについてもわかりました。

■最後に
 折しも自民党総裁選・総選挙の話題が報道をにぎわせており、それに対し、毎日私は少し冷めた目で見ています。しかし、今回の合宿では「民意の低さ」「市民の消費者化」などの言葉を、自分自身に突きつけられたと感じています。自分が「民意の低さ」を作っている原因ではないか、「政治家が無関心」と言う前に、自身が政治や行政に対して諦めをもっている点を改めて反省しました。
 今、ご紹介いただいた松下幸之助の言葉〜「最後まで諦めない/眠れなくなるほど日本を心配すること」を常に意識として持ち続けていくことの大切さを噛み締めています。冒頭にも述べましたが、岡山政経塾生としての卒塾論文では「まちづくり」をテーマにしています。日本の政治という大きなテーマではないですが、「市民が自分自身のために、自信を持って自ら動くまち」、そしてそれを「公としての役割を明確にした上で支援していく行政」をどう実現していくか、をさらに深く研究していきたいと思います。



※参考:特別例会で心に残ったキーワード(例会時のノートより)
・ 成功の要諦は、成功するまで諦めないことにある〜うまくいっても運が良かった、間違っていたら素直に謝る
・ 「政治も経営や」
・ 教わらずしてやる人を作りたい
・ 民主主義は経済の追求の結果である
・ 運と愛嬌
・ 「人物たれ」
・ 「徳」〜素直な心で行動する
・ 政治学は知っていても政治は知らない〜○○学を超えるのが政治家
・ 経営学を学んだとしても焼き芋屋すらできないだろ
・ 発意する政治
・ 現地現場主義
・ 最後の最後まで諦めない
・ 港湾・空港は国家戦略である
・ 教師にしかできない仕事があり、それは子供の胸に赤々とした火をともすことである
・ 実は、困っていない一般市民にとっての行政は不必要と考えることもできる。ではサービス・費用は何に使うべきか
・ 子供を守るには町内会に入って顔を覚えてもらうこと、顔を覚えること
・ 市民は消費者かクルーか
・ 今の時代は皆に好かれる首長はいない
・ どろぼう以外に何でもできるのが市長
・ 「半分しかない」と「半分もある」と捉えるプラス思考
・ 政経塾設立からまだたかだか30年しか経っていない。松下政経塾は歴史が評価するものではないか
・ 志〜日々たゆまぬ努力をしているか