2008年 松下政経塾特別例会

 
◆富田 泰成(岡山政経塾 七期生)

《松下政経塾研修レポート》




【はじめに】 
 松下政経塾の威風堂々とそびえる門をくぐり、その研修は始まった。
 そこは、「塾」というより「道場」の色が強かった。「道場」とは、機能や仕組みではなく「器」であると考える。しかし、ただの「器」ではなく、その中で、ある同じ思いを持った人たちが、集い、そして磨きあう。その練磨が世代から世代に受け継がれ、やがて伝統が生まれ、新しくそこに集う人たちに、深い気付きと、感動を伴う共感を与える。
 その「道場」には、人は変われど、世代から世代へ受け継がれる不易の精神性があり、身が引き締まる雰囲気を持っていた。

 そこでの1日半の研修を通して戒めた自分なりのテーマは、「当事者になれ」ということだった。

【松下幸之助】
 VTRの中の松下幸之助は語った。言葉を思い出してみたい。
 自分で学ぶということについて。
 「自らをつくれ」
 「教わらずやるのでなければだめです」
 「自得自習できないとだめだ」
 「克明に教えてくれる先生についたら上手は出るけど、名人は出ない」
「全員が宮本武蔵になれ」
「慶応出たら就職できるとか、誰かに付けば大きくなれるとか、その程度の範疇を出ていない。それでは、まだまだ依頼心があるよ。」
以上 自分は恥ずかしいほど、この点甘えている。岡山政経塾にも甘えている。この精神は心に刻み付けたい。

 政治について。
 「国に運命がある限り、必ず役に立っていく。日本の国と運命を共にする思い。」
 「政治学は知るが、政治を知らない。○○学、これを乗り越えないといけない。」
 「民主主義は、経済を追求してきた結果できたもの。」
 「生産性のもっと良い政治ができるはずだ。」
 「自分から発意するような政治を日本はしていない。」
 「まだまだ政治は進歩の第一歩。」
 「小さい政治で大きな成果が生まれる。」
 
 塾祖松下幸之助は、一体どんな世界になっていることを夢見たのだろうか。
 塾頭によると、「200〜300年後には無税国家が実現できる」「政経塾の評価は100年は少なくともかかってなされるもの」「50年に一人の名人と言われる政治家がここから出てくることを望んでいる」と塾祖は考えていたと言うが、その人物の志の幅と、無私の心に、強い感動を覚えた。
 松下政経塾を一言で表現すると、「大地に深く根っこをおろした大木」と私は認識した。
 岡山政経塾も、いつかそんな大木になれるように、私自身も、その伝統の礎のひとつであることを自覚したい。

【松下政経塾 宮川さんの講演】
「あなたが政治を、この国づくりをしているのです。それを教育の側からやっていく。」
この言葉には心が動いた。

 また、「大人が変われば子供も変わる。」これには同感である。これは、宮川さんが最近の子供に必要なものとして「考えるちから」と言っていたことと関連しているのではないだろうか。
 今の子供は、「考える力がなくなってきた」わけではなく、大人の中に正しいモデルを探す機会が減っていることと、正しいモデル自体が少なくなっていることによって、「ものを考える基準」を持つことが出来ていないのではないか。だから、選択に迫られても判断できない。つまり「正しく生きるためのケーススタディー」の減少がその背景にあるように思える。

 「大人が変われば子供が変わる」ということに関して、もう一点触れておきたい事がある。祖父母の代から続く「負の輪廻」を断ち切るために、自ら変わろうともがく子供も、この日本の底辺には、まだたくさんいるという事実だ。
 「これまでの人生で、信じることができる大人に合ったことがなかった」と、はじめて本気で自分のことを変えようと頑張ってくれた教師に、語る高校生がいた。その子は、信じることができる大人に出会うことで、自分の進路を見つけ、そのために懸命に学び、はじめて祖父母から続く暴力と借金と逃避だけの地獄のような「運命」から抜け出すことができた。
 大人が全部悪い。私もその一人だ。ならば何ができる。良くも悪くも、全部未来につながってしまうことをもっともっと自覚していきたい。

【海老根市長 前田元横浜市副市長 市民の市民による政治】
藤沢市の海老根市長の講演を聴き、「市民の目線で市民経営を」という言葉が耳に残った。
経営の観点で行政を捕らえるという意味であるが、同時に、市民にも「自分たちの暮らしを経営してみないか!」と投げかけていた。
 私が、今回政経塾のテーマにすることを考えていくにつれ、直島の時に気付いた「公」の大切さも加わり、いかに立派な政治家が立とうと、受け手側に受け皿が無ければ「糠に釘」の状態から抜け出すことはできないという考えが益々深まっていった。しかし、同時に、市民の参加モチベーションを喚起できるリーダーが少ないのも現実なのであろう。
 
 海老沢市長が掲げるマニフェスト実行計画書の3つの姿勢、@公開(ディスクロージャー)A連携(ネットワーク)B経営(マネジメント)は、市政に関わる議員全ての参加で行われ、また市民にも当事者意識を持つように訴えている。また、「経営(マネジメント)」の姿勢は市民の参加モチベーションを考える上で大変重要であろう。「市民に経営者になってもらおう」という言葉通り、市民にも当事者であるように意識を喚起している。
 経営と経営者の視点で政治を見る時、そのヒントは限りなく転がっている。
 
 瀕死の日産自動車を立て直した頃のカルロスゴーン社長の講演を聞いたことがある。(ちなみに私の父は、当時日産自動車の社員で、斜陽の愛社の有様を思い、毎日眠れずに苦しんでいた当事者であり、その頃の父の憔悴しきった様子を今でも覚えている。)
 
 参加した講演と、その著書「ルネッサンス」で、ゴーン社長は次のように力説している。
 
「重要な決断を下す際には燃え盛るプラットホームが不可欠である。日産はまさに焼け落ちんばかりのプラットホームに立っていたのである。私は、時間的猶予は限られていることをはっきりと口にした。そして、復活に貢献するチャンスは社員全員にあるが、貢献したくない社員には二度とチャンスは訪れないと言い渡した。脅迫ではなく、これが現実であった。」
「日産の人々がマネジメント・スタイルの変革に実に速やかに受け入れたことに驚きを禁じえない。もちろん反対者がいなかったわけではないが、誰もが昔のやり方に戻ることはできないという共通認識を持っていた。彼らは当然、自分たちのプラットフォームが燃えていることに気付いていた。」

 政治を行う上で、現在足元に火が迫っていることを名言できるリーダーがどれほど日本にいるだろうか。私を含め、市民は、駄目になってきているという環境変化を一番肌身で感じているはずである。それをはっきり自覚させるのもリーダーの仕事ではないだろうか。
 また、「自分たちが立ち上がらないと、あなた方には未来はない」と市民が選出した行政のリーダーはなぜ明言しないのであろうか。
 私は、基本的には日本人は、「公」の精神を持っている国民であると信じている。しかし、それが身をもって自分のこととして感じられないうちは、悠長に高みから見物している傾向があるようにも感じられる。
 ゴーン社長はこうも言っている。「日産の誰もがどこかが間違っていると感じていた。そして、問題の原因は自分たちの部門ではなく、他の部門にあると思っていた。全ての問題の責任は他の部署や部門にあると思い込んでいたのだ。」
 つまり当事者になりきれていなかったのである。行政においても、その危機が現実であれば、自分たちの問題であることをリーダーが克明に明言する必要があると思うのである。

 更に市民側の課題を考えてみたい。前田元横浜副市長の言葉を思い出す。
 「消費者は税金を払っている。消費者は神様です。こういう人が増えれば地域が住みにくくなっていく」
 この言葉にあるように、私の反省も含めてエゴの蔓延は無視できない。
 市民が、経済の原則の中だけで行政を受けとめ、ある一定の価値を提供され、その対価としてのお金を払うという考えでは、欲しい「今」の満足を買うだけにすぎないではないか。
 暮らしは誰のものか?その暮らしの積み上げの先に、歴史が築かれていく。その先に待つ未来で歴史のつけを払うのは誰か?それを小さいながらも考え、暮らしていくこと、その個々の責任範囲を市民として自覚できない日本人に、政治を批判することができるのだろうか。選挙権は、ただのバーゲンの列に並ぶことができるクーポン券になってはいまいか。そして、そうしてしまったのは誰か?
 
 やはり、傍観者を当事者に変える、強い「マネジメント」の観点が行政にも重要であろうと、ここであらためて考えるのである。
 
  上記内容は、合宿の懇親会の席でも、松下政経塾の熊谷さんと熱く話した内容でもある。このテーマを私は岡山政経塾で深めることにする。4月では、予想もしていなかったテーマだが、これがこれまでの政経塾の行事から導き出された自分なりの帰結点として受け止めている。 そのテーマは「マネジメントの視点から考える相互協調型行政の仕組み」
 
 最後に、ゴーン社長の改革の3要素を紹介したい。
 「VISION」「MISSION」「MOTIBATION」
 特にモチベーションが全ての原動力だと力説している。
 市民と行政が、公共への参加モチベーションをいかにリアルに共有できるか、この1点に私の松下政経塾の関心は集中していた。
 
【最後に】お礼
 合宿終了後、靖国神社と東京大学福武ホールへの見学に参加した。靖国に関しては、多くの持論を述べたいところではあるが、それはまた別の機会にさせていただき、ここでは多々手配をいただいた荻野さんに感謝申し上げます。
 尚、小山事務局長あればこそ、松下政経塾の門を我々がくぐることができるということを今回改めて感じさせられました。いつものことですが、再度お礼を申し上げます。
 また、松下政経塾の方々、ご案内から懇親会までお世話いただき、ありがとうございました。温かく迎えていただいた上、茶室で心を込めてもてなしていただいた心静まる時間のことは忘れることができません。
 
【追記】
  海老根市長の「マニフェスト2008」の図を私なりに書き換えてみた。
 吉冨さんが、資料を見て質問していたように、「理念」と「姿勢」と「戦略」が並列で並んでいるのは、確かにわかりづらく、木に例えると、何が肥料で、何が地面で、何が幹で、何が花なのか、をはっきりさせた方が良いのではないかと考えての資料である。



 以上                              平成20年9月9日 
                            岡山政経塾7期 富田泰成